
① 問い|阪本ウォッシャーマンは事業になるのか?
大型商業施設やテーマパークの駐車場には、たくさんの車が停まっています。
その持ち主は、買い物をしたり、食事をしたり、遊んだりしている。その間に車を洗っておけば、洗車のために別の時間を使わずに済みます。
ポッドキャスト「マユリカのうなげろりん!!」の「#264 阪本ウォッシャーマン」で、阪本さんが考えていたのは、こうした事業でした。
駐車場に「ウォッシャーマン」という洗車スタッフを複数配置し、希望する人の車を洗って、代金を受け取る。番組では、客の集め方や人員の配置についても考えていました。スタッフが自分で積極的に営業して回ることを前提にした案ではありません。
私は、この発想には分かりやすい便益があると思いました。
車をきれいにしたい。でも、洗車のためだけに出かけたり、終わるまで待ったりするのは面倒。もともと車が動かない時間を使えれば、その負担を減らせます。
では、この思いつきは本当に事業になるのでしょうか。
② 事実|調べてみると、ほぼ同じサービスがすでに存在していた
調べてみると、「Quick Wash(クイックウォッシュ)」というサービスがありました。
商業施設の駐車場に停めた車を、利用者が買い物などをしている間に手洗いするサービスです。阪本さんの案と、中心となる仕組みはほぼ同じでした。
公式会社概要では2008年創業。10年以上続いており、全国20店舗以上に展開しています。ららぽーと、イオンモール、プレミアム・アウトレットなどが出店先です。公式には累計30万台以上の洗車実績も案内されています。[1][2]
大きな洗車機を駐車場に置くわけではありません。
専用の溶剤と少量の水を使い、その場で車を洗います。公式案内の使用水量は1台あたり約2〜3リットル。大規模な洗車設備の工事を必要としないことも、施設向けに説明されています。[2]
ネット予約や電話、現地での受付に対応し、ネットで事前決済を済ませることもできます。外装洗車では鍵を預けず、駐車場所を伝え、買い物をしている間に作業が終わる仕組みです。[3]
一度使って終わりのサービスでもありません。2023年の御殿場店の公式記事には、利用者の約7割がリピーターだという説明があります。ただし、集計期間や数え方は示されておらず、全店舗共通の数字とは扱えません。[4]
ここまでで、最初の問いには一つ答えが出ました。
少なくとも、事業として成立させること自体は可能だった。
もちろん、長く続いていることから、全店舗が黒字であるとか、高い利益率を実現しているとまでは言えません。それでも、実際に料金を払い、繰り返し利用する人がいるサービスであることは分かります。
③ 再考|それなら、なぜ全国で当たり前になっていないのか?
大型商業施設には多くの車が来ます。洗車は一度で終わるものではなく、年間に何度も必要になる。買い物中に済むという便益もあります。
そう考えると、もっと多くの施設で見かけてもよさそうです。
ここから、問いを一段進めます。
成立するサービスなのに、なぜ全国の大型商業施設で当たり前のように使われていないのか。
ただし、20数店舗という規模だけから「これ以上伸びない」とは判断できません。会社がどの速度で出店したいのかも分からないからです。ここでは成長の失敗を判定するのではなく、広げる際にどこが難しくなるのかを考えます。
A:使いたい人が、十分にいるとは限らない
まず、洗車をしたい人が、そのままQuick Washの利用者になるわけではありません。
GfKの2024年調査では、主な洗車方法は「自分で手洗い」が49%、「洗車機」が41%でした。有料の店舗手洗いは7%です。[5]
この7%を商業施設の来場車両に掛ければ注文数が出る、という話ではありません。普段は自分で洗う人でも、便利なら利用する可能性はあります。ただ、多くの人には、すでに別の洗車方法があるということです。
Quick Washを選ぶには、価格に納得でき、その日に洗いたくて、作業が終わるまで施設に滞在できる必要があります。公式の共通案内では洗車は40〜60分。短い買い物だけの人には、必ずしも合いません。[3]
もう一つ気になるのは、サービスを知っているかどうかです。
番組では、マユリカの2人とも、このような既存サービスを知らずに話していました。一方で、先ほどの店舗記事にはリピーターが比較的多いという説明がありました。
ここから私は、「使った後の評価だけでなく、初回利用まで到達していない人の多さにも、改善の余地があるのではないか」と考えました。
ただ、2人が知らなかったことは、一般消費者の認知率を示す統計ではありません。また、利用者にリピーターが多いことと、初めて使った人の大半が継続することも別です。新規客が少なければ、リピーターの構成比は高くなります。
認知不足は、現段階では仮説です。
それでも、サービスを知ってから注文するまでの導線は、確認する価値があります。実際に、看板は知っていても洗車場所が分からなかったという利用者の体験記もありました。[6]
B:注文があっても、受けられないことがある
反対に、使いたい人がいるのに対応できなかった例もあります。
有明ガーデン店は2023年12月、人手不足で予約が埋まり、当日の電話注文に応じにくかったことを公式に説明しています。その後、スタッフが増え、当日受付が可能になったとしています。[7]
パルコシティ店にも、施工するエリアを別棟へ広げたことで、満予約による断りが減ったという2022年の記録があります。[8]
こうした例を見ると、需要そのものがないとは考えにくいでしょう。
ただし、供給力を決めるのはスタッフの人数だけではありません。どの場所で洗えるか、車まで移動するのに何分かかるか、注文が特定の時間に集中するかによっても、受けられる件数は変わります。
なお、予約画面の空きだけで需要不足を判断することはできません。埋まっている表示にも、予約済み以外に定休や人員配置などの事情があり得ます。スタッフ募集があることだけで、欠員があるとも言えません。
今回、直接確認できたのは、特定の店舗・時期に受注の取りこぼしが起きたことです。全国で常に人手不足だという意味ではありません。
C:人を増やせば、利益が増えるとは限らない
では、忙しい店にはスタッフを増やせばよいのでしょうか。
ここで、採算の問題が出てきます。
9月27日の調査で確認したオリナス錦糸町店の料金は、トヨタ・アクアのSサイズで、ミスト洗車が税込1,900円でした。これは、その店舗・車種・メニューの表示価格です。[9]
仮に、受付や移動も含めて1台に合計70分の人手が必要なら、待機時間がなくても、作業1人1時間あたりの税抜売上は約1,481円です。
時給を仮に1,300円とすると、差は約181円。そこから資材、施設利用料、決済、採用・教育、管理などの費用を負担します。これは実際の利益を推定した数字ではなく、作業時間によって採算が厳しくなる条件の例です。
一方、税込2,600円のメニューを合計50分の人手で提供でき、勤務時間の75%を作業に使えるなら、勤務1人1時間あたりの税抜売上は約2,127円になります。前提を変えると、費用を賄える余地も大きく変わります。[9]
大切なのは、作業時間、単価、稼働率の組み合わせです。
注文を断らないために人を増やしても、その人が待つ時間まで増えれば、利益が残るとは限りません。「注文がある」と「増員すると儲かる」の間には、もう一段の検討が必要です。
④ 仮説|問題は洗車需要の量ではなく、需要密度ではないか
ここまで見ると、「需要が足りないのか、人が足りないのか」という二択では捉えにくいと思いました。
必要なのは、次の条件が重なることです。
- サービスを知っている。
- その日に洗車したい。
- 価格を許容できる。
- 完了まで施設に滞在できる。
- 洗車できる場所に車がある。
- その時間にスタッフが対応できる。
施設に何千台の車が来ても、この条件を満たす注文が、洗える場所と時間に集まらなければ受注につながりません。
私は、この集まり方を「需要密度」と考えると、事業の難しさが見えやすくなると思います。ここでは、一定の場所・時間に、採算の合う注文がどれだけ集まるかという意味です。
例えば、同じ店舗でも、平日午前は注文が少なく、休日の昼は洗い切れない、という状況はあり得ます。
休日の混雑に合わせて人を厚く置けば、取りこぼしは減るかもしれません。しかし、その配置をほかの時間にも続ければ、待機人件費が増えてしまう。
需要不足、供給不足、採算不足は、同じ店舗内でも併存し得ます。これは実際の曜日別実績を確認した結論ではなく、公開された事例と費用構造から考えた仮説です。
すると、中心となる問いも変わります。
利益が残る注文を、スタッフの勤務時間に合わせて集められるか。
そして、注文が集まる時間に、必要な人を置けるか。
この両方を考える必要がありそうです。
⑤ 海外事例|海外の同業は、この問題をどう解いているのか
ここで、海外の類似サービスを見てみます。
知りたいのは、海外企業の方が優れているかどうかではなく、継続利用や働く場所、人の配置にどのような仕組みを用意しているかです。
以下は各社の公開案内で確認できたサービス設計です。更新日不明の常設ページは9月30日の補足確認を含むため、9月27日時点の料金や提供条件を厳密に復元したものではありません。
GLINT|次の洗車まで、関係をつなぐ
米国のモールでのサービスを案内するGLINT(glintllc.com)は、買い物中の車内外清掃を、単発料金と月額会員制で提供しています。
公式案内では、単発の清掃メニューに加え、月に2回のプレミアム清掃、予約優先、追加サービスの割引などを組み合わせた月額プランを掲載しています。追加メニューには、ワイパー交換やヘッドライトの修復などもあります。[10]
私が注目したのは、その日の洗車だけで関係を終えない点です。
次も使う理由があれば、利用者は洗車のたびに別の店を探す必要がありません。事業者から見ると、年間に何度も発生する洗車需要を、自社に寄せる仕組みになります。
もちろん、会員制度があるだけで顧客が定着するとは限りません。ここから分かるのは、継続利用を促す設計があることまでです。
ProntoWash|車が止まる場所を、商業施設以外にも広げる
ProntoWashの米国向け案内には、商業施設や空港の固定拠点に加え、オフィス、企業の駐車場、大学などでのサービスが示されています。法人がまとめて保有・運用する車両、いわゆるFleet向けのプランもあります。[11]
法人車両には専用のパッケージ料金を案内しています。また、オフィスの指定駐車区画で、勤務中に外装洗車を繰り返し行う仕組みもあります。プエルトリコの地域サイトでは、会員制度や複数月の前払いプランも確認できます。[11][12]
車内外の細かな清掃・仕上げまで提供し、継続的な車の手入れにつなげています。ただし、地域別の制度を全世界共通のものとしては扱えません。
ここから得られる示唆は、買い物中だけでなく、仕事中など、車が長時間止まる別の時間にも目を向けられることです。
Spiffy|予約と配車をつなぎ、車の管理まで広げる
Spiffyは、オフィスなどへ出向く洗車に加え、法人車両の整備や管理へサービスを広げています。公式にはオイル交換、タイヤ関連作業、点検なども案内されています。[13]
法人向けには車両の使い方に合わせたサービス計画を提案し、予約、作業の追跡、支払いなどをシステムで管理します。契約ごとの料金は今回の公開情報では確認できませんでした。[13]
オフィス向けの定額カーケア「Spiffy Care」を紹介した過去の公式記事もありますが、その記事だけで現在の同一プランの継続は断定できません。[14]
さらに、同社のソフトウェア案内には、自動配車、ルートの最適化、ルートごとの採算把握といった機能が示されています。[15]
ここから私が参考にしたいのは、予約を受ける仕組みと、人が実際に動く仕組みをつなぐことです。整備まで接点を広げることで、洗車以外にも繰り返し利用する理由を作っています。
ただし、日本では料金、人件費、洗車習慣、施設の条件が異なります。海外の仕組みが、そのまま日本で利益を生むとは限りません。
この3社は、改善の方向を考える材料です。日本での成功を保証する事例ではありません。
⑥ 改善案|では、Quick Wash型事業をもっと伸ばすなら?
ここからは、国内調査で見えた課題と海外事例を踏まえた、私の改善案です。
Quick Washが未実施だと確認できた施策の一覧ではありません。すでに行われているものも含め、何を伸ばすと事業の構造が変わるかを考えます。
① 認知・需要を増やす|施設で働く人にも使ってもらう
まずは、使える人が、使えるタイミングでサービスを知ることです。
駐車場の入口や施設アプリで案内し、その場で料金、現在の空き時間、完成予定時刻を確認できるようにする。単に「洗車できます」ではなく、「今日の買い物の間に終わるか」が分かれば、利用判断はしやすくなるでしょう。
もう一つ考えたいのが、施設従業員向けの割引洗車です。
車で通勤する従業員なら、平日にも施設へ来て、長時間駐車する可能性があります。一般客の注文が弱い時間に洗車できれば、別の需要を作れるかもしれません。
施設側にも、従業員の福利厚生として提案する余地があります。例えば、平日の空き時間に限り、退勤時までの完成を条件に割り引く形です。
ただし、従業員駐車場が離れていれば、移動時間が増えます。車通勤者がどれだけいて、洗車できる区画を確保できるかを確認したうえで、閑散時間を埋める施策として考えたいところです。
② 年間の洗車需要を囲い込む|1人に、年何回使ってもらえるか
GLINTの会員制から参考にしたいのは、年間を通した利用の取り方です。
年間4回プラン、一定期間内の再利用割引、次回予約割引などが考えられます。利用者の希望に合わせて、次の洗車時期を通知する方法もあるでしょう。
例えば、年に6回洗車する人が、Quick Washを1回だけ利用しているとします。そのうち3回を任せてもらえれば、新規客を増やさなくても利用回数は増えます。これは説明のための例で、実際の平均利用回数ではありません。
見るべきなのは、リピーターの割合だけでなく、その人の年間洗車需要のうち何回を取れているかです。顧客の支出に占める自社の取り分を「ウォレットシェア」と呼びますが、ここでは回数の取り分から考えると分かりやすいと思います。
継続利用が増えれば、顧客1人との関係から得られる長期的な収益、いわゆるLTVを高める余地があります。利用履歴が蓄積すれば、次の需要を予測し、人員配置に生かすための顧客データとしても価値を持ちます。
ただ、年間プランを売っただけでは、来店する日時までは決まりません。次回予約と結び付けて初めて、配置の見通しがよくなります。割引しすぎず、必要な回数と使いやすい条件を設計することが前提です。
③ 需要を平準化する|空いている時間を、選ぶ理由を作る
今回、特に意味があると思うのは、空き時間ごとに割引率を変えることです。
例えば、前日までの予約には割引を付ける。需要が弱い曜日・時間帯だけ安くする。当日も、残っている枠を見ながら割引率を変える。
目的は、スタッフが余る時間に注文を動かすことです。
通常料金でも埋まる時間まで値下げすれば、利益を減らしかねません。一方、追加の勤務を増やさずに空き時間を使えるなら、値引きしても利益が増える可能性があります。
確認したいのは、値引きによる売上の減少より、稼働率の改善によって残る利益の方が大きいかどうかです。もともと通常料金で使う人が割引枠に移っただけなのか、新しい注文が生まれたのかも分ける必要があります。
価格だけでなく、予約の約束の仕方も変えられそうです。
「13時に作業を始める」ではなく、「16時までに完成させる」。長く滞在する人がこの条件を選べるなら、事業者は空いた時間へ作業を回せます。
洗車を開始する時刻にこだわらず、帰るまでにきれいになっていればよい人はいるかもしれません。その時間の余裕を、料金上のメリットと交換する案です。
④ 需要に人員を合わせる|店ごとに抱え込まない
注文を動かす一方で、人の配置も変えられます。
Spiffyの仕組みを参考に、前日までの予約と過去の当日注文から、翌日に必要な人数を見積もる。混む時間は短時間シフトで補い、近隣店に余力があれば応援に入ってもらう。
都市部なら、複数の店舗を一つのまとまりとして、人員を管理する方法も考えられます。
ただし、近隣の商業施設が同じ時間に混めば、応援は出せません。移動に時間がかかれば、その分だけ洗える台数も減ります。店舗間の距離だけでなく、繁忙時間の違いまで見たいところです。
また、洗車には、車を傷つけずに仕上げる技術が必要です。
毎回違う未経験者を当日集めるより、研修済みの短時間スタッフをあらかじめ確保する方が、品質をそろえやすいでしょう。前日に人数を予測する仕組みも、働く人が対応できるシフトの範囲で組む必要があります。
⑤ 1顧客あたりの収益を増やす|追加料金と追加時間を一緒に見る
Quick Washには、すでに撥水ワックス、コーティング、車内清掃などのメニューがあります。買い物中に車の査定を行うサービスも案内されています。[9][16]
ここで考えたいのは、単価の高さだけではありません。
追加サービスで得られる粗利を、追加の作業に使う人数と時間で割ってみる。この記事では「追加粗利÷追加作業人分」、つまり追加料金から資材などの追加費用を引いた金額が、追加の人手1分あたりでいくら残るか、という見方です。
高額なコーティングでも、長時間かかり、その間に通常洗車を何台も断るなら、混雑時には優先すべきでない場合があります。逆に、短時間で価値を足せるメニューなら、収益を改善できるかもしれません。
将来的には、簡易な車両チェックでタイヤ、ワイパー、バッテリーなどの需要に気づき、車検や整備会社へつなぐことも考えられます。
ただし、車のことを幅広く相談される存在になるには、まず洗車を通じて継続的に会える関係を作りたいところです。年間の洗車を十分に任せてもらい、その信頼をもとに、必要なときに次のサービスを案内する。
この順番で考える方が、無理なく広げられると思います。
⑥ 洗車できる場所を広げる|休日と平日の需要を組み合わせる
ProntoWashを参考にすると、展開先は商業施設に限られません。
オフィス駐車場、法人車両の保管場所、マンション、テーマパークなど、車が長時間止まる場所はほかにもあります。
例えば、休日は商業施設、平日はオフィスで注文を集められれば、同じスタッフの勤務を埋めやすくなる可能性があります。法人車両を決まった日にまとめて洗えるなら、移動や準備も集約できそうです。
これは、場所ごとに異なる需要の波を組み合わせる仮説です。商業施設が必ず休日型、オフィスが必ず平日型とは限らないため、実際の駐車・利用パターンを確認する必要があります。
元の案にあったテーマパークは、滞在時間の長さが利点になり得ます。ただ、広い駐車場で車を探して回れば、移動時間が増えます。退園前に完成期限が集中する可能性もあります。
車が多く、長く停まっている。それだけで好条件とは言い切れません。
洗う区画をまとめられるか、帰るまでの余裕を作業の分散に使えるか。展開先でも、この条件を確かめたいと思います。
⑦ 反論|そんな改善は、Quick Washも考えているのでは?
ここまで改善案を考えてきましたが、当然、この反論があります。
長年この事業を続けているQuick Washが、予約やリピート、シフトの問題に気づいていないはずがありません。
実際、ネット予約、会員登録、予約割引の実施例、短時間勤務の募集、洗車オプション、車査定などは、すでに公開情報で確認できます。[3][16][17]
さらに、予約割引については、人件費の高騰を理由に終了したという店舗の告知もあります。[18]
「値引きすれば注文が増える」という発想だけでは足りないことを、事業者自身が経験している可能性があります。
したがって、今回の考察を「経営陣が簡単な改善策に気づいていないから、全国に広がらない」とまとめるのは適切ではありません。
むしろ、かなり工夫したうえでも、注文の場所と時間を、働く人の場所と時間に合わせる難しさが残るのではないか。私はそう考えています。
会員制にしても、会員が休日の同じ時間に集中すれば供給不足は残ります。予約をシステム化しても、近くに働ける人がいなければ施工できません。海外の制度を採り入れただけでは、この問題は消えないでしょう。
また、今回の需要密度という仮説が、全国拡大の最大の制約だと証明できたわけでもありません。
新規出店には、施設との契約、採用・教育、立ち上げ資金なども必要です。会社が採算のよい場所を選び、慎重に出店している可能性もあります。既存店での増員がうまくいっても、新しい施設への出店採算まで保証するものではありません。
もし既存店ではすでに十分な注文と利益を確保できていて、出店の障壁が主に施設契約や資金にあるなら、今回の改善案の優先順位は変わります。
現時点では、どの施策が不足しているかを断定するより、店舗・時間帯ごとの注文数、断った理由、総作業時間、待機も含めた利益を見て、課題を分ける必要があるという見立てです。
⑧ 結論|アイデアは成立した。難しかったのはその先だった
阪本さんの「大型商業施設にウォッシャーマンを置き、客が遊んでいる間に洗車する」という発想は、既存企業によってすでに事業として成立していました。
ただ、調べるほど、ウォッシャーマンを置けば自然に広がる、というほど単純ではありませんでした。
サービスを知ってもらい、年間に何度も使ってもらう。空いた時間へ注文を動かし、注文に合わせて人を動かす。追加サービスと出店先も、人の時間に対して利益が残るかで選ぶ。
洗車技術と品質は、その前提です。そのうえで全国にウォッシャーマンを広げるには、需要予測と人員配置を設計する経営が重要になる。今回、私がたどり着いたのは、この見方です。
今後このモデルが大きく広がるなら、年間プランで継続利用を増やせているか、時間帯別の価格で需要を分散できているか、オフィスや法人車両も組み合わせて人員の稼働を高められているかを見たいと思います。
これらが起きるという予測ではありません。拡大を支える仕組みとして、確認したい変化です。
最初は、駐車している車の多さに可能性を感じました。調べた後に気になったのは、その車を洗う人の一日を、どう設計するかでした。
主要出典
本文中の番号に対応。国内の分析は添付の2調査資料を中心に構成し、下記の公開資料を参照しています。公式案内は各社の自己申告であり、利益や施策効果を第三者が検証した資料とは区別しています。
1. Quick Wash「会社概要」「店舗リスト」:2008年創業、出店施設。
2. Quick Wash「商業施設向け洗車サービス」「車買取り査定」:全国20店舗以上、少量水・大規模工事不要の案内、累計30万台以上の実績。累計施工とネット予約累計は定義が異なるため合算していない。
3. Quick Wash「洗車の流れ」「ネット予約が可能になりました!」、リバーウォーク北九州店「待ち時間がお得になる!待ち得クーポン」(2026年1月23日):施工時間、予約・決済、会員登録、電話・現地受付。
4. Quick Wash御殿場店「停めたその場で洗車とは?」(2023年):約7割がリピーターという店舗記事の説明。集計方法・期間は不明で、全店舗の継続率には使用していない。
5. GfK Japan「洗車に関する調査」(2024年):自家用車保有者15,223人の主な洗車方法。2024年1月29日〜2月11日調査、ノンウェイト集計。数値は添付第2段階調査の確認内容を使用。
6. 個人ブログ「たまプラーザテラスで駐車中に洗車」(2024年5月26日):施工場所を見つけにくかった利用者の個別体験。非利用者全体の傾向とは扱っていない。
7. Quick Wash有明ガーデン店「スタッフ随時募集しております。」(2023年12月15日):人手不足による当日受注難と増員。
8. PARCO CITY店舗公式ブログ「駐車した場所で洗車致します!」(2022年11月8日):別棟の施工エリア開設後、満予約による断りが減った事例。
9. 添付「Quick Wash型『駐車中洗車』サービスの拡大制約」「Quick Wash型『駐車中洗車』の拡大ボトルネック」:9月27日の錦糸町・アクアSの料金観測、受注・供給・採算の整理、条件計算。追加レポートの閲覧日は9月29日。基準日以前の日付付き情報と9月27日の観測を継承。
- 料金観測元
- 計算は税込価格を1.1で割った税抜売上を使用。作業時間・時給・稼働率は仮定であり、実績の推定ではない。
10. GLINT公式サイト「Services & Pricing」「Monthly Membership」「Add-On Services」:モールでのサービス、単発料金、月2回の会員プラン、追加メニュー。対象はglintllc.comであり、同名の別の洗車事業者とは区別。
11. ProntoWash米国向け公式案内「About Us」:Fixed Facility、Mobile、B2B、Fleet、Executive。商業施設以外への展開、法人料金、オフィスでの継続洗車。
12. ProntoWashプエルトリコ「Ofertas/Membresías」:地域別の会員制度・複数月前払いプラン。グローバル共通制度とはしていない。
13. Spiffy「Commercial Mobile Fleet Maintenance Services」:法人車両の洗車・整備・点検、個別サービス計画、予約・追跡・決済等。
14. Spiffy公式ブログ「Spiffy Care: The World’s First On-Demand, Subscription, Car Care Program!」:オフィス向け定額カーケアの紹介。現在の同一プランの販売継続や料金は未確認。
15. Spiffy「The #1 Mobile Service Software for Dealerships」:自動配車、ルート最適化、ルート別採算等の機能案内。実際の利益改善率は使用していない。
16. Quick Wash「車買取り査定」:買い物中のスマート査定の提供案内。収益額や全店舗での提供は断定していない。
17. Quick Wash「スタッフ募集 一緒に働く仲間を探しています」、PARCO CITY店舗公式ブログ「ネット予約&事前決済でスピーディーに♪」(2024年):短時間勤務・研修、予約割引の実施例。過去の割引を現在の全店共通制度とはしていない。
18. Quick Wash「ネット予約割引終了のご報告」:人件費高騰に伴う割引終了の告知。全店舗で同時に終了したという意味には使用していない。
